オープンエンドと宣言マージ (open-ended and declaration merging)
JavaやPHPなど、他の言語にもinterface構文がある言語があります。他の言語とは異なり、TypeScriptのinterfaceには、オープンエンド(open-ended)と宣言マージ(declaration merging)という珍しい特徴があります。
オープンエンドと宣言マージとは
他の言語のinterface構文は、同じ名前のインターフェースを宣言するとエラーになるものが多いです。たとえば、PHPでFoo
インターフェースを2つ宣言すると、重複エラーになります。
PHPphp
interface Foo {}interface Foo {}// Fatal error: Cannot declare interface Foo, because the name is already in use in...
PHPphp
interface Foo {}interface Foo {}// Fatal error: Cannot declare interface Foo, because the name is already in use in...
TypeScriptでは、同じ名前のインターフェースを宣言してもエラーにはなりません。
ts
interfaceFoo {}interfaceFoo {} // エラーにならない
ts
interfaceFoo {}interfaceFoo {} // エラーにならない
このように、複数のインターフェースを宣言してもエラーにならない仕様のことを、オープンエンドといいます。
同じ名前のインターフェースを宣言した場合、それぞれのインターフェースの型がマージされます。たとえば、次のようにプロパティa
を持つインターフェースと、プロパティb
を持つインターフェースを宣言した場合を考えてみましょう。
ts
interfaceFoo {a : number;}interfaceFoo {b : number;}
ts
interfaceFoo {a : number;}interfaceFoo {b : number;}
この宣言は、次のようにプロパティa
とプロパティb
を持つインターフェースを、ひとつ定義したことと同じことになります。
ts
interfaceFoo {a : number;b : number;}
ts
interfaceFoo {a : number;b : number;}
このように、同じ名前のインターフェースがマージされる仕組みを宣言マージといいます。
宣言マージの活用シーン
JavaScriptがアップデートされるにつれ、既存のクラスにもメソッドが追加されることがあります。たとえばArray
クラスはES2016でincludes
が、ES2019でflatMap
が追加されました。
TypeScriptの開発元は、JavaScriptのアップデートに合わせて、Array
インターフェースの型定義も対応していく必要があります。単純に考えると、JavaScriptのバージョンごとに、Array
インターフェースを独立して定義する方法が考えられます。
このアプローチは、一見すると良さそうです。しかし、よく考えてみると、JavaScriptがアップデートされるにつれ、インターフェースのコピペコードが増えていくという問題が出てきます。ES2015とES2016のArray
の違いは、includes
があるかないかの違いだけです。それなのに、pop
やpush
といった多数のメソッドまでコピーしないといけなくなってしまいます。
これを解決するのが宣言マージです。TypeScriptの開発元が、どのように宣言マージを活用しているのか、具体例を見てみましょう。まず、もっとも古いバージョンのArray
インターフェースを宣言した型定義ファイルを用意します。
最も古いバージョンのArrayインターフェースts
interfaceArray <T > {pop ():T | undefined;push (...items :T []): number;concat (...items :ConcatArray <T >[]):T [];// ...その他沢山のメソッドが続く...}
最も古いバージョンのArrayインターフェースts
interfaceArray <T > {pop ():T | undefined;push (...items :T []): number;concat (...items :ConcatArray <T >[]):T [];// ...その他沢山のメソッドが続く...}
次に、ES2016で追加されたメソッドに対応するArray
インターフェースを別ファイルに作ります。
ES2016.array.d.tsts
interfaceArray <T > {includes (searchElement :T ,fromIndex ?: number): boolean;}
ES2016.array.d.tsts
interfaceArray <T > {includes (searchElement :T ,fromIndex ?: number): boolean;}
さらに、ES2019で追加されたメソッドに対応する型定義ファイルも別に作ります。
ES2019.array.d.tsts
interfaceArray <T > {flatMap <U ,This = undefined>(callback : (this :This ,value :T ,index : number,array :T []) =>U |ReadonlyArray <U >,thisArg ?:This ):U [];}
ES2019.array.d.tsts
interfaceArray <T > {flatMap <U ,This = undefined>(callback : (this :This ,value :T ,index : number,array :T []) =>U |ReadonlyArray <U >,thisArg ?:This ):U [];}
このようにバージョン間の差分だけを、インターフェースに定義していくと、JavaScriptのバージョンが上がっていっても、コピペコードが発生しません。
TypeScriptユーザーは、自分が必要なJavaScriptのバージョンに応じて、これらのファイルを読み込むことで、最適なインターフェースの型が使えるようになります。たとえば、ES2016のJavaScript環境を対象に開発しているなら、ES2016までの型定義ファイルまで読み込むようにします。ES2019の環境を対象とするなら、ES2016とES2019両方の型定義ファイルを読み込むといった具合です。
この例のように、すでに宣言したインターフェースは直せないが、インターフェースを拡張する必要がある場合に、宣言マージが活用されます。